2009年 日本放射光学会奨励賞 受賞者について

2009/01/10

2009年 日本放射光学会奨励賞の受賞者についてお知らせします。

日本放射光学会
会長 雨宮慶幸

第13回 日本放射光学会奨励賞

唯 美津木 会員
分子科学研究所 物質分子科学研究領域 電子構造部門
in-situ時間分解XAFS法を駆使した触媒化学の革新
受賞理由
 唯美津木氏は、「最も困難な10の触媒反応」の一つに挙げられる、酸素分子を用いたベンゼン直接酸化によるフェノール合成を、高活性・高選択的に実現する新型担持レニウム触媒を開発した。この反応を継続的に進行させるためにはアンモニアが必要とされるが、XAFS法を用いて触媒反応中における触媒活性種の構造変化やアンモニア分子の果たす役割を分子レベルで解明した。In-situ条件下における時分割リアルタイムdispersive XAFS実験では、Re10 核クラスターが酸素と反応する過程において、準安定な中間化学種が存在しないことが、触媒反応における高活性、高選択性の要因であることを示した。また、time-gating Quick XAFS法を開発して、実燃料電池の作動条件下におけるカーボン担持白金ナノ粒子カソード触媒の酸化還元挙動を1秒の時間分解能で捉え、リアルタイムdispersive XAFS法では4msのリアルタイム計測を実現し、同時に起こると考えられてきた電気化学反応と白金触媒の構造変化の間に明確な時間差が存在する新しい現象を見出した。さらに異常電圧を印加した時の白金の溶出過程の解明にも貢献した。
 以上のように、種々のin-situ時間分解XAFS法を駆使して行われた研究は触媒化学研究のみならず、化学反応全般に新たな展開を付与するものであり、唯美津木氏の放射光科学における功績は大きく、日本放射光学会奨励賞に十分に値するものであり、今後の一層の発展を期待するものである。

受賞研究報告 学会誌 vol.22 No.2 (2009)

原田 健太郎 会員
高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 放射光源研究系
パルス四極電磁石を用いた新しい入射方式の提案と実証
受賞理由
 原田健太郎氏は、電子蓄積リングでの電子ビーム入射方式として、パルス四極電磁石を用いた新しい入射方式を提案し、実機放射光リングでその有用性を実証した。従来の電子蓄積リングへのビーム入射は、複数台のパルス偏向電磁石を用いるバンプ軌道入射方式となっており、トップアップ運転は所定の場所以外に軌道のずれが生じない精密なバンプ形成を成し遂げて可能となっている。一方、原田氏が提案した方式では、四極電磁石の中心を通る既に入射され蓄積されているビームには影響を与えずに、入射ビームを同磁石の周辺に通すことによりその収束力を用いて蓄積ビームのまわりに導くことができる。原田氏は、電磁石システムの適切な設置場所およびパラメータをシミュレーションにより見出し、世界的にも例のないマイクロ秒パルス動作を行う四極電磁石・励磁電源・セラミックチャンバーの開発、磁場測定などの性能試験を行った。PF-ARへこれらのシステムを設置し、ビーム入射・蓄積に成功した。この方式により、入射システムを小型化することができ、今後放射光利用にとって標準的運転となるトップアップ運転への既設施設の対応を容易とすることが期待される。さらに、今まで難しかった小型放射光施設でのトップアップ運転の実現に道を開くものである。
 以上のように、パルス四極電磁石を用いた新しい入射方式の提案と実証を行った原田健太郎氏の放射光科学における研究功績は大きく、日本放射光学会奨励賞に十分に値するものであり、今後の一層の発展を期待するものである。

受賞研究報告 学会誌 vol.22 No.2 (2009)

三村 秀和 会員
大阪大学 大学院工学系研究科 精密科学・応用物理学専攻
放射光用高精度X線ミラーの製作とナノビーム応用
受賞理由
 三村秀和氏は放射光用高精度X線ミラーの製作と応用において、EEM(Elastic Emission Machining)法を用いた超精密加工法の開発、スペックルのないX線ミラーの開発、X線回折限界を目指したX線ナノ集光ミラーの開発などに大きな成果を上げている。
 高輝度放射光X線を扱う光学系は各国で精力的に研究されているが、三村氏は超高精度ミラー作製において、EEM法がX線の散乱を極限まで低減可能な超平滑表面創成法であることを実証するとともに、装置に改良を加えることにより実用的なX線ミラーが作製可能なレベルまで完成度を高めた。また反射ビームに含まれるスペックルの理論的解析を行い、ナノスケールの凹凸形状補正を行う新しい計測法(マイクロスティッチング形状計測法)とEEM加工手法を開発し、初めてスペックルの無いミラーを完成させた。またこれらの技術を用いて世界初のミラーによるX線回折限界集光を実現し、また製作した大開口数のミラーを用いて2007年の時点でビーム幅25nmを得ており、世界的なナノビーム開発競争の先端に位置している。更に、次の目標とされている分解能10nm顕微鏡システムの開発やXFEL用の長尺ミラーの開発などを現在進めている。
 以上のように、放射光用高精度X線ミラーの製作と応用における三村秀和氏の研究業績は大きく、日本放射光学会奨励賞に十分に値するものであり、今後の一層の発展を期待するものである。

受賞研究報告 学会誌 vol.22 No.2 (2009)