2017年 日本放射光学会 各表彰受賞者について

2017/01/10

2017年 日本放射光学会が贈呈する各表彰の受賞者についてお知らせします。

日本放射光学会
会長 石川哲也

第21回 日本放射光学会奨励賞

上村 洋平 会員 (UEMURA Yohei)
自然科学研究機構 分子科学研究所
超高速時間分解XAFSによる不均一触媒のメカニズムの研究
受賞理由
 上村洋平氏は、大学院時代から一貫して硬X線XAFSによる不均一触媒反応解析を行い、多くの成果を挙げているが、その業績は大きく2つに分けられる。第一は、波長分散型XAFS法(DXAFS)を、PtSnやPdZnのような合金ナノ粒子に適用し、各構成元素の時間分解XAFS測定によって、詳細な速度論的解析に成功したことである。特に、高機能燃料電池触媒として期待されるPtSn超微粒子の酸化過程の解析では、SnがPtクラスターとコア・シェル構造を形成することを明らかにし、反応に伴い表面組成がダイナミックに変化することを直接証明したものとして高く評価できる。第二の業績は、XFELとレーザーを組み合わせたポンプ・プローブXAFS法で、可視光応答型光触媒WO3の光励起過程の詳細を明らかにしたことである。これまで、金属錯体など均一系での実験は知られているが、可視光とX線で侵入深度が異なることから固体への応用はその報告例が無かった。受賞者はWO3微粒子を水中に分散させて試料濃度を下げ、レーザーによる励起を効率よく行うことでこの問題を克服し、XFELの超短パルスX線を用いることで、500 fsの時間分解能のXAFS測定に成功した。これによって、WO3の光励起状態が多段階の過程を経て緩和していること、光励起に伴うWの価数変化に200 ps遅れて構造変化が起こることを明らかにした。
 以上のように、上村洋平氏は多様な時間分解XAFS法で触媒構造変化を追跡し、反応メカニズムを解明した。これらの成果は、放射光科学、および、触媒化学研究両面において独自性の高い優れた業績であり、放射光学会奨励賞に相応しいものである。今後のさらなる発展を期待する。

受賞研究報告 学会誌 Vol.30 No.2 (2017)

木村 隆志 会員 (KIMURA Takashi)
北海道大学 電子科学研究所
X線自由電子レーザーによる溶液環境コヒーレント回折イメージング法の開発
受賞理由
 木村隆志氏は、X線自由電子レーザー (XFEL) を利用したコヒーレント回折イメージング (CDI) 法を溶液環境下で実現するための基盤技術を開発し、コヒーレント放射光科学の発展に顕著な貢献を行なった。
  XFELを利用したCDI法は、結晶でない試料に対して、放射線損傷の問題を回避しながらナノイメージングを実現する方法として注目されてきた。 しかしながら、CDI法では、 寄生散乱を抑制するために試料は通常真空中に置かれるため、試料環境が厳しく制約されていた。 受賞者は、CDI法を溶液中の試料に対して適用するために、微小な液体セルをチップ上に多数配置した、マイクロ液体封入アレイ (MLEA) の開発を行なった。 この上で、各セルからの回折像を、XFELのシングルショット照射で次々と取得することにより、溶液中の生きた細胞をX線でナノレベル観察することに世界ではじめて成功し、 その有用性を実証した。 さらに、生体試料の観察のみならず、液中における合成や反応等のナノ材料のダイナミクスの解明へと広く展開している。
 これらの業績は、コヒーレント放射光科学の重要な一基点として、本学会奨励賞に相応しいものである。今後のさらなる発展を期待する。

受賞研究報告 学会誌 Vol.30 No.2 (2017)

第4回 日本放射光学会 功労報賞

該当者なし