2020年 日本放射光学会 各表彰受賞者について

2020/01/10

2020年 日本放射光学会が贈呈する各表彰の受賞者についてお知らせします。

日本放射光学会
会長 朝倉清高

第24回 日本放射光学会奨励賞

横山 優一 会員 (YOKOYAMA Yuichi)
公益財団法人 高輝度光科学研究センター
共鳴非弾性軟X線散乱による電子状態解明およびコヒーレント軟X線散乱による時空間分解計測の開発
受賞理由
 横山会員は、LaCoO3 の共鳴非弾性軟X線散乱を測定して、引張応力下にある薄膜の3d 電子間の遷移を観測し、応力ひずみによる高低スピン状態の違いの検出に成功した。また、SPring-8 のBL07LSU において時間分解軟 X 線吸収分光装置を開発し、レーザー光照射による Eu M5 端の吸収強度の時間分解変化から4f 電子系の光誘起過渡現象を直接観測することに成功した。さらに、コヒーレント軟X線散乱による時空間分解計測を実現するために、情報科学の手法を取り入れ、コヒーレント回折イメージング用のスパース位相回復の新しいアルゴリズムを開発し、従来の手法では解析不可能なノイズ及び情報欠損を多く含むデータからでも情報が抽出できるという画期的な手法の開発にも成功した。これらの研究はいずれも独創的かつ世界最先端の成果で、学術研究として高く評価できる。加えて、研究のアクティビティも指数関数的に進展しており、わが国の放射光科学の将来を担う若手研究者としての素質を十分に備えている。
 以上、横山会員は新進気鋭の若手研究者として困難な研究に積極的に取組み、将来にわたり放射光分光およびイメージングの分野をリードしていくと期待され、日本放射光学会の奨励賞に相応しい研究者である。

受賞研究報告 学会誌 Vol.33 No.2 (2020)

第7回 日本放射光学会 功労報賞

小山 篤氏 (KOYAMA Atsushi)
高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所放射光実験施設
受賞理由
 小山篤氏は、1984年の高エネルギー加速器研究機構(KEK)入所以来、PFのXAFSビームラインを中心とするビームライン群(BL10B、 BL7C、 BL6B、 BL12C、 BL9A、 BL9C、 NW10A、 BL15A)の建設・運用・管理・利用支援・高度化に従事するとともに、後進の技術職員を育成・指導した。この間に行った光学系調整法やビーム位置モニター等の整備・高度化により、XAFSビームラインの利便性向上や、XAFS測定法の高度化・効率化が進み、国内XAFSユーザーの飛躍的な増大につながった。また、実験ホールの温度・冷却水等の変動を記録する環境測定システムを整備し、実験環境を改善したり、東日本大震災の復旧作業チームを指揮して短期間で運転を再開するなど、施設整備関係にも大きな貢献をした。さらに、共同利用実験を安全に実施するために、非常通報装置の設置・火災受信器の集約等、施設安全関係にも取り組んだ。
 以上のように、小山氏は、放射光施設の技術開発に加え、施設全体の整備・安全関係に対する功労があり、永年にわたり施設を支えてきた貢献は非常に高く、日本放射光学会功労報賞に相応しい技術者である。

功労報賞報告 学会誌 vol.33 No.2 (2020)

堀米 利夫氏 (HORIGOME Toshio)
自然科学研究機構分子科学研究所極端紫外光研究施設
受賞理由
 堀米利夫氏は、1973年、高エネルギー物理学研究所の共通研究系・工作室の技術職員に採用され、物理実験機器の設計・製作に従事したのち、1980年、分子科学研究所に異動してUVSOR施設のVUV-SXを中心とする多くのビームライン・観測システム(BL3A、BL5B、BL7A、BL8B、BL3U、BL6U、BL7U、BL7B)の設計・製作および技術支援活動に永年にわたり従事している。その間、研究者の技術相談にも熱心に対応し、種々の実験装置の改良や創意工夫による研究者支援に尽力し、多くの研究者から信頼される高い技能を持った技術者としてUVSORの特色ある研究活動を支えている。研究ニーズに的確に対応した同氏の技術的な助言・指導は、若手研究者の研究活動を大きく発展させただけでなく、軟X線二結晶分光器、ARPESにおける超高真空用試料搬送機構、極低温冷却機構や結晶劈開機構、STXMにおける試料回転機構やオペランド分光試料セル、半球型光電子エネルギー分析器の真空回転機構、X線自由電子レーザーの検出器機構など、同氏が開発に関わった機器は、国内外の施設で広く採用され、中には商品化されたものがあるなど、放射光科学の発展に大きく寄与している。
 以上のように、堀米氏は、放射光施設の高度な利用に必要な要素技術開発に加え、施設を利用する研究者への高い技術支援を通して、放射光科学分野に対する多大な功労かあり、日本放射光学会功労報賞に相応しい技術者である。

功労報賞報告 学会誌 vol.33 No.2 (2020)

第3回 放射光科学賞

辛 埴氏 (SHIN Shik)
東京大学・総長室・特別教授室
軟X線放射光を用いた先端電子状態分光の開発と物性研究の開拓
受賞理由
 辛埴氏は、世界初の放射光専用施設SOR-RINGをはじめ、つくばのPF、播磨のSPring-8と、常に世界最先端の光源で世界最高性能を有する特徴ある先端電子状態分光装置を複数開発し、それを用いた物性研究の開拓研究を行ってきた。特に共鳴非弾性軟X線散乱(RIXS)分析装置を作製し、先駆的かつ包括的な研究によって世界的なRIXSブームの火付け役となった。この装置は当時の世界最高エネルギー分解能を達成し、高エネルギー分解能かつ高検出効率のRIXS分析装置であった。さらに独自の溶液セルを開発し、溶液やタンパク質の電子状態を観測する道を拓いた。RIXSだけでなく超高分解能光電子分光装置を開発し、強相関物質、磁性材料、表面化学反応の研究において精緻な電子物性の研究を可能にした。一方、辛氏は高調波レーザーを用いた真空紫外・軟X線域の電子状態測定でも顕著な業績を残している。パルス特性、単色性、高輝度性、コヒーレンス性、偏光性、エネルギー可変性など、軟X線レーザーと放射光の相補性を活かした研究展開は、2種類の光源とその利用技術が相互に発展する絶好の機会を与えただけでなく、次世代放射光における最先端分光の位置づけを明確にした。
 以上のように辛埴氏は我が国の放射光科学の発展に著しい貢献をしており、本学会放射光科学賞に相応しい研究者である。

受賞研究報告 学会誌 Vol.33 No.2 (2020)