2021年 日本放射光学会 各表彰受賞者について
2021/01/10
2021年 日本放射光学会が贈呈する各表彰の受賞者についてお知らせします。
日本放射光学会
会長 朝倉清高
第25回 日本放射光学会奨励賞 |
大坂 泰斗 会員 (OSAKA Taito)
理化学研究所放射光科学研究センター XFEL 研究開発部門
ビームライン研究開発グループ ビームライン開発チーム
X 線自由電子レーザー先端利用のための新しいX 線光学系の開発
受賞理由
大坂泰斗氏は、 X 線自由電子レーザー(XFEL)の先端利用を実現する新しいX線光学系として、X線分割遅延光学系、ならびに、Siマイクロチャネルカット結晶素子の開発を実現した。
X線分割遅延光学系は、単一のXFELパルスから時間差可変のダブルパルスを生成する光学系である。X線光子相関分光法(XPCS)やX線非線形光学等のXFEL先端利用を大きく発展させると期待されていたが、技術的な難度が極めて高く実現されていなかった。大坂氏は、要素技術としてのシリコン光学素子を開発しながら、光学系を新たに設計・構築した。その上で、SACLAで検証試験を行い、分割遅延系が正しく動作することを世界で初めて実証し、さらにXFEL の時間コヒーレンス特性の直接計測も達成した。また、 Siマイクロチャネルカット結晶素子は、反射型セルフシード法という新たなXFEL生成手法において中核となる光学系である。大坂氏は、優れた結晶加工技術を用いてギャップ幅がわずか100 μmのSiマイクロチャネルカット結晶素子を開発し、反射型セルフシード法による高強度・狭帯域なXFELの安定生成の実現と、その利用の発展に大きく貢献した。
大坂氏は、XFEL施設・コミュニティを中心に国際的な評価も極めて高く、今後の一層の活躍が期待される。 以上により、大坂泰斗氏の業績は本学会奨励賞に相応しいものと認められた。
第8回 日本放射光学会 功労報賞 |
有田 将司氏 (ARITA Masashi)
立命館大学SRセンター
受賞理由
有田将司氏は、平成11年に広島大学放射光科学研究センター(HiSOR)に着任し、以来21年間HiSORのビームライン担当技術職員として放射光利用技術の高度化及び利用者支援に取り組んできた。
有田氏は、HiSORの特色となっている低エネルギー放射光を用いた高分解能角度分解光電子分光(ARPES)ビームラインBL-9Aの整備・高度化の中核を長年担ってきた。2004年には放射光を用いた固体の光電子分光で世界最高のエネルギー分解能である700μeVを達成した他、HiSORの施設設備の維持管理や、共同利用・共同研究拠点活動の基盤を支えてきた。その結果、HiSORのBL-9Aからは学術的にインパクトのある多くの研究成果が創出され、小型放射光源の特色を活かした世界的にもユニークなビームラインとして国内はもとより海外の有力な研究グループがこのビームラインで共同利用・共同研究を実施している。有田氏はビームライン担当者として国内外の研究者の課題申請を引き受け、多くの論文の共著者となっている。
以上のように、有田将司氏は長年にわたる放射光利用技術の高度化および利用支援の取り組みを通じて放射光科学分野に対する多大な功労があり、日本放射光学会功労報賞に相応しい技術者である。
第4回 放射光科学賞 |
石川 哲也氏 (ISHIKAWA Tetsuya)
理化学研究所 放射光科学研究センター センター長
SPring-8 X 線光学系の開発とコヒーレントX 線光学の開拓
受賞理由
石川哲也氏は、これまで約40 年にわたって、日本と世界の放射光科学を先導してきた。 石川氏は、Photon Factoryから東大を経てSPring-8に至る研究経歴の中で、数々の新しいX線光学系を世に送り出してきた。最大の業績の一つは、大型放射光施設SPring-8におけるX線光学系・ビームライン技術を確立したことである。SPring-8は当時、世界最高輝度の光源であったが、それ故に光学素子への熱負荷が大きな問題となっていた。石川氏は、自ら開拓した独自の光学技術によって、高い熱負荷にも耐えうる高性能な光学システムを開発し、SPring-8の光源性能を引き出すことに成功した。これにより、物質、生命科学などの広範な分野における放射光科学の発展に大きく貢献した。
また、石川氏は新たな分野であるコヒーレントX 線光学の開拓を行なった。特に、世界に類を見ない 1 km長尺ビームラインと27 m 長尺アンジュレータビームラインをSPring-8 に構築し、世界最高のコヒーレンスを持つX線の利用を推進した。さらに、これらの成果は、コンパクトXFEL光源のコンセプトの提唱と実証につながり、石川氏のリーダーシップのもと独創的かつ高機能なコンパクトXFEL施設SACLAが実現し、X線非線形光学をはじめとする最先端のサイエンスが展開されている。
このように、石川氏は我が国発の世界最高水準である放射光科学を生みだし、放射光コミュニティの発展に著しく貢献した。以上により、石川哲也氏は第4回放射光科学賞を受賞するに相応しいものと認められる。