2022年 日本放射光学会 各表彰受賞者について
2022/01/10
2022年 日本放射光学会が贈呈する各表彰の受賞者についてお知らせします。
日本放射光学会
会長 横山利彦
第26回 日本放射光学会奨励賞 |
河口 彰吾 会員 (KAWAGUCHI Shogo)
(公財)高輝度光科学研究センター 回折・散乱推進室
ハイスループットその場粉末回折自動計測システムの開発
受賞理由
河口彰吾氏は、大型放射光施設SPring-8の粉末構造解析ビームラインBL02B2において高分解能粉末回折データの高速データ収集システムを構築し、さらには多彩な試料環境制御下の測定を実現する機器及びそれらの自動迅速切替システムを開発した。当該ビームラインの新規利用者や発表論文数の増加は河口氏の功績に他ならない。特に、河口氏が独自に開発した試料のガス圧力を自動制御可能なリモートハンドリングシステムは画期的で、秒オーダー以下のガス吸着過程における多孔性金属錯体の構造相転移の観測に成功したことは高く評価できる。本システムはすでに全散乱やXAFS等の他のビームラインでも利用されており、波及効果も大きい。
河口氏は、ガス吸着や反応下などのリアルタイムで進行する不可逆過程の結晶構造変化を計測するための装置開発と構造物性研究に取り組むだけでなく、利用者の効率的な実験実施のためのキャピラリへの粉末自動充填装置なども開発し、汎用性と先進性を両立する実験ステーションの実現に向け精力的に活動している。関連学会での評価も高く若手でありながら委員も任されるなど、放射光科学において今後もさらなる活躍が期待される希有な研究者である。以上により、河口彰吾氏は第26回日本放射光学会奨励賞に相応しいものと認められる。
鈴木 博人 会員 (SUZUKI Hakuto)
東北大学学際科学フロンティア研究所
共鳴非弾性X線散乱による強相関量子物質における素励起の研究
受賞理由
鈴木博人氏は、鉄系超伝導体の光電子分光研究で博士の学位を取得後、軟X線共鳴非弾性X線散乱(RIXS)を用いた物質科学研究の重要性にいち早く注目し、強相関電子系の研究で世界を先導している独国Max Planck研究所のKeimerグループに所属して研究を行ってきた。その中で代表的なものが、ESRFでの銅酸化物高温超伝導体の超伝導ギャップ励起測定、およびPETRA IIIでのSrRu2O6のRu-L3端RIXSによるマグノン分散の観測であり、国際的にも高く評価されている。特にSrRu2O6のRIXS測定では、Ru-L端がテンダーX線領域(~3keV)にあり、X線分光技術が未発達なため、これまでRIXSが行われてこなかったが、本研究ではこのエネルギー領域でのRIXSの最初の成果であり、この新しいエネルギー領域を開拓した意味で高く評価できる。また、今後運用が開始される次世代放射光施設における中心的研究の1つとして大いに期待できる。このように鈴木博人氏は軟X線RIXSのみならずテンダーX線RIXSで世界を先導する成果を上げている。以上により、鈴木博人氏は第26回日本放射光学会奨励賞に相応しいものと認められる。
第9回 日本放射光学会 功労報賞 |
山本 安一 氏 (YAMAMOTO Yasukazu)
立命館大学SRセンター
受賞理由
山本安一氏は、立命館大学SRセンターにおいて、26年間にわたり、安定運転・維持管理・高度化、ならびに、放射光利用従事者の教育と支援に従事してきた。
山本氏は、立命館大学SRセンターの光源を長期シャットダウンもなく長きにわたり利用運転に提供してきた。この間、加速器運転においては、ヘリウム液化機や高周波制御部およびそれらの制御システムの改良や電子ビームエミッタンスの制御により長寿命運転を達成した。また、ビームライン整備においては、小型放射光光源であることの利点を最大限に活かすX線ビームラインのミラー系の設計やリング内にミラーを直接導入することによる高光子束赤外ビームラインの設計なども実践してきた。このような光源安定運転やビームライン整備は、大学に設置された放射光利用施設として多くの学生・若手研究者に放射光科学の教育と利用研究の機会を提供し、日本の放射光科学分野における人材育成に大きく貢献してきた。
以上のように、山本安一氏は、長年にわたる放射光利用研究環境の整備、および、利用支援への取り組みを通じて、放射光科学分野、特に、放射光利用機会の提供と若手研究者人材の育成に対する多大な功労があり、日本放射光学会功労報賞に相応しい技術者である。
第5回 放射光科学賞 |
野村 昌治 氏 (NOMURA Masaharu)
高エネルギー加速器研究機構
XAFS計測技術の開発による放射光科学への貢献
受賞理由
野村昌治氏は、X線吸収分光(XAFS)の計測技術の研究開発、及びその応用研究の普及において指導的・先導的役割を果たした。野村氏は、Photon FactoryにおいてXAFS法の計測技術の研究開発に取組み、その活動はX線光学系構築・計測プログラム開発・試料環境整備など極めて広範囲にわたり、国内他放射光施設におけるXAFSステーション構築ならびにXAFS計測技術の様々な科学技術分野への波及に多大な貢献を果たしてきた。
また、野村氏はXAFS法の高度化にも尽力し、代表的業績として、故松下正・高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所・元副所長が先駆したDispersive XAFS (DXAFS)法の開発が挙げられる。湾曲結晶の集光分光技術開発を行い、マイクロ秒時間分解DXAFSを実現し、触媒の反応メカニズム解明等に役立てた。特に自動車触媒Pt/ZrO2-CeO2の酸素吸脱着過程を初めて捉えたDXAFS研究は国内外の注目を集めた。DXAFS法開発は、第二世代放射光源での時分割計測を具現化し、第三世代以降光源での極短時分割計測への流れをつけた点で重要な放射光科学の発展に位置付けられる。
このように野村昌治氏はXAFS分光を中心に我が国の放射光科学とそのコミュニティの発展に著しく貢献してきた。以上により、野村昌治氏は第5回放射光科学賞に相応しいものと認められる。