2007年 日本放射光学会奨励賞 受賞者について

2007/01/10

2007年 日本放射光学会奨励賞の受賞者についてお知らせします。

日本放射光学会
会長 雨宮慶幸

第11回 日本放射光学会奨励賞

岡 俊彦 会員
慶応義塾大学理工学部物理学科
時分割X線回折法による紫膜の光反応過程の研究
受賞理由
 岡俊彦氏は、高フラックスビームラインと時分割X線回折装置の開発に携わり、特に、単パルスの高フラックスX線と二次元X線検出器を組み合わせたマイクロ秒時間分解能での生体高分子用時分割X線回折装置の開発に主導的な役割を果たした。さらに、自ら開発した装置を用いた時分割X線回折実験により、生理的環境下での紫膜を試料としたバクテリオロドプシンの光反応過程の構造研究において、10マイクロ秒時間分解能で寿命の短いM1反応中間体からM2反応中間体への構造変化の過程を世界で初めて明らかにした。これらの成果は、高輝度放射光を利用した時分割X線回折法が生体高分子の反応過程研究において有力な実験手段であることを示したもので、放射光科学および構造生物学研究の両面において独自性の高い優れた業績である。

受賞研究報告 学会誌 vol.20 No.2 (2007)

野末 佳伸 会員
住友化学株式会社 石油化学品研究所
マイクロビームX線小角散乱を用いた高分子材料の構造研究
受賞理由
 高分子材料の複雑な階層構造を研究する上で小角X線散乱は絶対不可欠な手法のひとつであるが、局所構造の詳細を知るには直径数ミクロンオーダーのマイクロビームが極めて有効である。しかし世界的に眺めても、マイクロビームを用いた小角X線散乱実験の報告は殆どされておらず、緊急に解決すべき課題として残されてきた。野末佳伸氏は、ミクロンサイズのX線ビームを作成、ラメラの複雑な集合組織である高分子球晶に照射、各ラメラの空間配置やラメラ間相関などを定量的に解明することに初めて成功した。また、同氏は結晶化過程における球晶構造発達の様子をマイクロビームX線小角散乱の高速時間分解測定に基づいて追跡することにも成功し、これまで謎とされてきた数多くの問題解決に一石を投じた。このように野末氏は、この技術開発を通じて、高分子構造研究分野の更なる発展に重要な契機を与えたものとして高く評価される。

受賞研究報告 学会誌 vol.20 No.2 (2007)

宮島 司 会員
高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所
非線形共鳴近傍における位相空間中でのベータートロン振動の研究
受賞理由
 近年第三世代を始めとする放射光光源では、積分輝度の増強や光学素子を熱平衡状態で使用することで測定精度の向上を目指すトップアップ入射の導入が不可欠に成りつつある。しかし、この方式は放射光ビームラインシャッターを開け、かつ挿入光源のギャップを閉めた状態で電子ビームを入射するため、実験ホールでの放射線安全の確保と挿入光源での永久磁石の減磁の抑制の2点から入射時のビーム損失を極力抑えることが重要となる。
 このビーム損失を引き起こす要因としては、強い6極電磁石による電子ビームの低エミッタンス化や挿入光源の高機能化で持ち込まれる非線形誤差磁場とリングを構成する各種電磁石の非線形誤差磁場で、これらが電子ビームの水平・垂直方向の運動を規定する。そのため、これら非線形磁場の強さおよび分布を正確に理解することが重要となる。
 宮島司氏は、これら非線形磁場で誘起される電子ビームの運動が、非線形共鳴近傍で強調されることに着目し、高速キッカー電磁石と位相空間モニターを用いて、これら共鳴を誘起する微小な非線形項の強さを導出する新しい方法を開発した。この方法は、トップアップ入射時のビーム損失に寄与する非線形共鳴ラインの同定、さらにはその共鳴線の補正方法の確立、そして電子ビームの更なる高精度化(低エミッタンス化、低カップリング化)技術の確立に今後大きく貢献するものと期待される。

受賞研究報告 学会誌 vol.20 No.2 (2007)