会長挨拶

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日本放射光学会会長

山本雅貴

2025年10月1日より、日本放射光学会会長を務めることになりました山本雅貴です。このご挨拶にあたり、まず本学会の使命について私の考えをお話しさせてください。

これまで、放射光学会は定款1)では「放射光科学, 放射光技術およびこれらに密接に関連する学問」を「放射光学(Synchrotron Radiation Research)」と定義し、学会ホームページの「日本放射光学会とは」2)では「放射光学」を「放射光の発生から利活用までを対象とする新しい学際的研究領域」と記しています。一方で、放射光学会は,放射光コミュニティの核として,放射光コミュニティをリードし,より広範な科学・産業利用を包含する新たな学際的研究領域として「放射光科学(Synchrotron Radiation Science)」を創造してきました。「放射光科学」は、加速器という大型施設に立脚した最先端の光源、ビームライン光学系、計測装置や独創的な放射光測定技術など放射光利用技術の研究開発を中心とした「放射光学」に専心する施設者と、それらの最先端の放射光測定技術を施設者と共に開発して研究や技術開発に活用するアカデミアから産業界まで幅広い分野のヘビーユーザを両輪として進んで来たことは言うまでもありません。

現代の学術や産業界の研究・技術開発において、放射光は革新的な先端研究や技術開発の成果を生み出す高性能実験装置として、より広範な科学者,技術者が利用する社会基盤へと変化しつつあります。そこで、今日の社会的な要請に応えるため、本学会の活動対象を、従来の放射光の研究開発や利用の高みを目指した「放射光学」中心から、今まで以上の社会貢献を目指してより広範な研究者や技術者の利用を視野に入れた「放射光科学」へと再定義することを提案します。これにより、既存の会員だけでなく、より幅広い放射光ユーザーとしての研究者・技術者との情報共有や、将来に向けた議論を深めていきたいと考えています。

具体的には、放射光コミュニティ全体を活性化し、若手を含む新たな人材の開拓や育成を目指すとともに、新たな会員獲得につなげたいと考えています。また、足立前会長のポートフォリオの精神を引き継ぎ、国内各放射光施設の特徴や利用制度をホームページで見える化することで、放射光の新規ユーザーの参入障壁を下げ、より多くの研究者・技術者に放射光を利用していただくことを目指します。さらに、潜在的なユーザーの方々も含めたより開かれた会員制度のあり方についても議論を進めていきたいと考えています。

また、年次の年会合同シンポジウムについても、従来の施設者やヘビーユーザの「放射光学」のシーズ報告中心から、様々な分野の潜在的なユーザー候補を含む「放射光科学」へのニーズと研究の報告の機会を設けて、広く将来の放射光について議論する場へと拡大し、より多くの研究者や技術者が集う開かれた放射光コミュニティを形成したいと考えています。

さらに、現在学会主導で進めている講習会や研究会についても、従来の専門家向けの内容に加え、異分野からの放射光利用や、大規模データを扱うデータサイエンスなど、新たな分野の人材育成にも取り組んでいきます。また、近年重要性を増しているデータに関連する議論についても、引き続きデータ標準化委員会で議論を進めていきます。

私の任期であるこの2年間で、これまでの学会の取り組みを継承しつつ、日本の研究基盤を支える放射光のさらなる普及と発展に尽力する所存です。そして、放射光を利用するコミュニティを拡大するため、会長として微力ながらも貢献できるよう努めてまいります。会員の皆様のご理解とご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。

1)学会定款 https://jssrr.smoosy.atlas.jp/ja/rules
2)学会HP「日本放射光学会とは」 https://jssrr.smoosy.atlas.jp/ja/about