2011年 日本放射光学会奨励賞 受賞者について
2011/01/10
2011年 日本放射光学会奨励賞の受賞者についてお知らせします。
日本放射光学会
会長 尾嶋正治
第15回 日本放射光学会奨励賞 |
福田 勝利 会員
信州大学繊維学部ナノテク高機能ファイバーイノベーション連携センター
放射光光電子分光によるMOSFETゲートスタック構造の界面電子状態解析
受賞理由
福田勝利氏は、全反射・偏光蛍光XAFS法とin-plane回折法を組合せ、ナノシートの新しい3次元構造解析法の開発を行った。ナノシートはシート法線方向に回折周期を持たないため従来の解析法を適用するのが難しく、さらに分子レベルの厚みしかないナノシートは極微量であり、その検出には工夫が必要となる。また、ナノシートでは、その機能を左右する面内周期構造や構成元素の化学状態などの構造情報を評価することが、材料開発にとって非常に重要であると認識されている。福田氏は、ナノシートの構造を解析するために、偏光依存XAFSと表面回折を組み合わせた新しい計測法を確立しており、放射光科学の展開にとっても大きな意義がある。さらに、新しい計測法を利用して、ルテニウム酸塩、酸化チタン、酸化タングステンなどの無機ナノシートの合成や構造解析に成功し、ナノシートの積層枚数と結晶化の温度依存など、原子レベルでの結晶化機構に関する重要な知見を見出している。
福田氏は、ハード・ソフト両面での実験手法の開発から応用研究まで幅広い成果を上げており、また、研究をまとめる総合的な能力においても優れていると評価され、日本の放射光科学を支える若手の一人として今後の発展が大いに期待できる。
以上のように、福田勝利氏の放射光科学の発展に寄与する功績は大きく、日本放射光学会奨励賞に十分値するものである。
松波 雅治 会員
自然科学研究機構分子科学研究所 極端紫外光研究施設
光電子分光と光反射分光を組み合わせた強相関電子系の研究
受賞理由
松波雅治氏は、物性物理学の分野で最も重要なテーマのひとつである「強相関電子系の研究」に取り組んできた。松波氏の研究の特徴は、その電子状態を多角的に捉えるため、放射光を主たる光源として「硬X線・軟X線光電子分光」と「赤外-紫外光反射分光」を組み合わせて新たな情報を引き出した点にある。具体的には、強相関Yb化合物の電子状態の研究で大きな成果を挙げた。
光電子分光の研究では、内殻光電子スペクトルに現れるサテライト構造の起源を、光反射スペクトルから得られる損失関数と比較する手法を提案し、解析を行った。その結果、様々な議論が行われてきた単体Yb金属とYbSにおけるYbのバルク電子状態における価数が2価であることをまったく矛盾のない形で証明した。さらに、YbSについて20GPaまでの圧力依存光反射スペクトルを測定し、4f電子状態が徐々に変化しながら伝導に寄与することを見出し、その圧力誘起絶縁体-金属転移のメカニズムを解明した。
これらの研究を進めるにあたり、SPring-8の赤外ビームラインBL43IRにおける超高圧力下実験において中心的な役割を果たした点も高く評価できる。
以上のように、松波氏の業績は、実験手法開発、解析手法開発の両面において新たな展開を示しており、放射光科学の進展における功績は大きく、日本放射光学会奨励賞に十分値するものである。