2012年 日本放射光学会奨励賞 受賞者について
2012/01/10
2012年 日本放射光学会奨励賞の受賞者についてお知らせします。
日本放射光学会
会長 水木純一郎
第16回 日本放射光学会奨励賞 |
岩澤 英明 会員
広島大学放射光科学研究センター
真空紫外線域の放射光を用いた酸化物超伝導体の微細電子構造の研究
受賞理由
岩澤英明氏は、これまで、放射光を用いた真空紫外領域における角度分解光電子分光の精度を飛躍的に向上させ、酸化物超伝導体における微細な電子構造の変化を明らかにしてきた。特に、 銅酸化物高温超伝導体Bi2212 において、電子格子相互作用が強いために生じる巨大アイソトープ効果を見い出したとする著名な先行研究を見事に覆し、実際はアイソトープ効果が数meVのわずかなものであることを明らかにした。この結果は高温超伝導体の分野で大きな注目を浴びた。その他に、Sr2RuO4酸化物超伝導体などにおいても、精密な電子構造の研究を行い、電子相関、スピン軌道相互作用、電子-ボゾン相互作用などの効果を明らかにした。
更に、岩澤英明氏は、広島大学HiSORの角度分解光電子分光ビームラインBL1の建設及びその共同利用実験において中心的な役割を果たした点も高く評価できる。
以上のように、岩澤英明氏の業績は、先端計測分野を牽引していく若手研究者の1人として認められる。同氏の真空紫外領域の放射光科学の進展における功績は大きく、日本放射光学会奨励賞に十分値するものである。
豊田 智史 会員
東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻
東京大学放射光連携研究機構
放射光光電子分光によるMOSFETゲートスタック構造の界面電子状態解析
受賞理由
豊田氏は9年間の長期にわたり一貫して、光電子のスペクトル測定により化学状態の深さ方向分析を行う手法の開発とその放射光ビームインにおける検証・応用を中心に半導体薄膜、界面の研究を行ってきた。最大エントロピー(MEM)法を適用してスペクトル強度の脱出角依存性を解析する深さ方向分析手法に内在する諸問題を正確に理解して、独自のソフトウェア開発を行ってきた努力が高く評価できる。豊田氏はまたSPring-8の東大ビームラインBL07LSUにおけるナノ集光軟X線を利用した走査型顕微鏡であるnanoESCA開発の主要メンバーとして貢献してきた。豊田氏が開発してきた深さ方向分析手法は、このnanoESCAによる3次元化学状態分析のための最重要要素であり、Si-LSIをはじめ先端デバイスにおけるナノ多層薄膜材料の解析への応用が展開されていくものと期待される。以上、豊田氏はすでに重要な実績を上げ、さらに将来への広い展開が見込まれており、その功績は日本放射光学会奨励賞に十分値するものである。