2013年 日本放射光学会奨励賞 受賞者について
2013/01/10
2013年 日本放射光学会奨励賞の受賞者についてお知らせします。
日本放射光学会
会長 水木純一郎
第17回 日本放射光学会奨励賞 |
篠原 佑也 会員 (SHINOHARA Yuya)
東京大学大学院新領域創成科学研究科
X線光子相関分光法を用いたゴム中のナノ粒子ダイナミックスの観察
受賞理由
篠原佑也氏は、SPring-8の高輝度放射光源からの高コヒーレントX線を利用したX線光子相関分光法(XPCS)を我が国において本格的に立ち上げるとともに、XPCSに適した検出器の開発を行った。そして、こうして自ら開発したシステムを利用して、高分子を初めとするソフトマテリアル、中でも特に、ゴム中に埋入したナノ粒子のダイナミックスを詳細に観察し、ナノ粒子充填ゴムの動的特性解明に大きな一石を投じた。篠原氏は、XPCS法の開発に先んじて、既にゴムの力学変形時に生じるナノ粒子の空間配置変化について超小角X線散乱測定にも成功しており、XPCS法によるダイナミックスと結びつけることで、実用的ゴムの挙動をミクロな観点から解明した点、産業的に見ても極めて大きな貢献をしたことになる。このXPCS法は、ゴムにとどまらず様々のソフトマテリアルのダイナミックスを解き明かす上でも有用な手法として、我が国の高分子産業界で積極的に利用され始めている。篠原氏は、その先鞭をつけた点で産業界の評価も極めて高い。篠原氏は、様々の国際会議で基調講演を行うなど、その研究業績は非常に高い評価を受けており、今後、先端的小角X線散乱法の開発において一層の活躍をしてくれるものと期待できる。その功績は日本放射光学会奨励賞に十分値するものである。
和達 大樹 会員 (WADACHI Hiroki)
和達 大樹 会員 (WADACHI Hiroki)
遷移金属酸化物薄膜の共鳴軟X線散乱による研究
受賞理由
和達大樹氏は、カナダ放射光施設の共鳴軟X線散乱用回折計の建設の構成員として主体的に携わり、世界でも第一線の性能を持つ装置を実現した。同氏は、この装置を用いてホールドープされたペロブスカイト型マンガナイトのエピキャシタル成長薄膜による共鳴散乱の散乱角、偏光依存性、入射エネルギー依存性を観察して、軌道秩序による散乱と磁気秩序による散乱を分離することにより軌道秩序と磁気秩序の相転移機構を解明した。また、薄膜特有の転移を発見し、これがエピキャシタル歪による磁気異方性の変化に起因するスピンの配向転移であることを明らかにした。さらに和達氏は、この研究に先立って軟X線共鳴散乱と硬X線回折を併用してマルチフェロイック物質YMnO3の薄膜の大きな分極発生の起源を明らかにした。
これらは、実用材料としてもその研究の発展が期待されるマンガン酸化物の磁性薄膜の物性を、自ら開発した実験装置を用い軟X線共鳴散乱を有効に活用し、かつ、硬X線回折も相補的に利用して明らかにした、放射光利用の新しい分野を切り開く優れた研究で、放射光学会奨励賞に値する。